詳細コンテキスト
【分析:状況】
プロジェクトマネジメントにおいて、不確実な要因を考慮した科学的な費用予測ツールが必要とされていた。
【分析:行動】
コストシェアレートとベイジアンネットワークを統合し、条件付き確率を入力することでリスク込みの予想費用を表示するツールを開発した。
【分析:結果】
実際のプロジェクト環境に近い予測が可能となり、リスクの高い要求仕様を可視化することで精度向上とリスク低減への寄与が期待できるようになった。
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【本文】
はじめに
今後、更に人工知能の利用を進めるためには、人と同等な行動判断が可能な人工知能が必要である。しかし、人の行動判断のメカニズムは明らかになっておらず、行動判断が可能な人工知能の実現は困難な状況にある。人の行動判断のメカニズムの解明が進まない理由の1つとして、人の行動判断は経験の有無、環境情報、行動目的等の複数の要因を考慮して行われ、メカニズムが複雑であることがある。更に、人の行動判断は時間と共に揺らぎ、必ずしも最適な行動判断を行っていないことがメカニズムの解明が進まない理由の1つである。最適な判断を行わないメカニズムをモデル化することは困難である。そこで、本論文では人の行動判断を模擬する人工知能として、3秒ルールインテリジェンスを提案する。3秒ルールインテリジェンスは人の行動を外部から観察して経験情報の登録を行い、取得した経験情報を元に行動判断の模擬を行う経験駆動型人工知能である。3秒ルールとは人の行動判断は3秒サイクルで行われているとの仮定に基づいている\cite{moc1}\cite{moc2}。人の行動には到達すべき目標があり、人は経験に従って行動を行う。経験のないことは行動出来ない。しかし、人はマニュアルや指示書に従って行動することが出来るため、マニュアルや指示書も拡張された経験であると見なすことができる。つまり、経験とは\underline{目標と環境情報を含む}、目標に向かう手順情報であると見なすことができ、経験情報の蓄積が出来れば、行動可能な人工知能の実現が期待できる。そこで、本研究は目標達成に向けて行動可能な経験駆動型人工知能の実現性を明らかにすることを目的とする。本研究に於ける課題とは新たな行動計画の立案である。
図 1プロジェクトマネジメントに於ける予算と行程
2.プロジェクト中の不確実要因
表 1に示す様にプロジェクトの計画と実行には不確実な要因が存在する。例えば、不確実な要因の1つに要求仕様の精度がある。要求仕様の精度とは仕様に内在する改定の可能性であり、仕様改定は設計変更とシステム変更となり、行程遅延や費用超過を引き起こす。そして、要求の仕様の精度は見積もり精度を左右して、リスクが発現して予算超過となる。予算超過となる理由は不適切な見積もりは無理な計画となり、リスクが発現して結果的に納期や品質を確保できないからである。加えて、新技術の導入やプロジェクトマネージャーやプログラマーのスキルもプロジェクトリスク発現要因となる。一方、開発要員の高いスキルや類似システムの開発経験はプラスリスクであり、費用低減の可能性を高める不確実要因である。プロジェクトの遂行を不確実する要因がプロジェクトリスクであり、ISO31000(International Organization for Standardization)では、リスクとはプロジェクトの実行を不確実にする要因であり、リスクにはプラスとマイナスが存在するとされている[4][5](表 1参照)。以降プロジェクトリスクを単にリスクと呼ぶ。そこで、本研究ではプロジェクトにおける不確実要因とリスクの関係を考慮した確率的プロジェクトリスク評価手法を提案する。具体的にはプロジェクト中に存在するプラスとマイナスのリスク(表 1参照)をベイジアンネットワークに表現してプロジェクトリスクを予測する手法である。
図 2 EVMによるプロジェクトマネジメントの実際
表 1プロジェクト中のリスクの種類
3. 研究背景と本研究の特徴
従来のプロジェクトマネジメントに関する研究は費用見積もりの精度向上や生産性向上に関する研究であった[6] [7]。あるいは機械設計に於ける仕様の改定回数を予測する研究であった[8]。しかし、プロジェクト中の不確実要因に着目したリスクマネジメントに関するものはない。例えば、プロジェクトに於ける不確実な要因には顧客からの要求仕様中の曖昧な点や、プロジェクトに従事するプロジェクトマネージャーやプログラマーのスキルがあり、プロジェクトの予算には不確実要因に対する予備費として10%から20%の費用を積み上げる、しかしこの予備費の内訳を科学的に分析しようとする研究はない。一方、従来のプロジェクトにおける見積もり方法としてCOCOMO法やファンクションポイント法があり、従来の手法では不確実な要因を幾つかの係数で表現する。例えば、COCOMO法では補正係数である[1]。そこで、本研究ではまず、要求仕様の精度とプロジェクト費用の関係について述べ、次にプロジェクト中の不確実要因をベイジアンネットワークで表現してプロジェクトの遅延確率を取得することを提案する。これまでに顧客要求仕様の精度を始めとするプロジェク中の不確実要因とプロジェクトリスクの関係について分析した研究は無い。
4. プロジェクトリスクと不確実要因
4.1 コストシェアレート
重要度の高い要求仕様の度重なる変更は予算超過や納期遅延を引き起こす。そこで、本研究では要求仕様の重要度を評価するためにコストシェアレートを提案する。コストシェアレートとは各要求仕様の実現に必要な費用が総費用に占める割合のことである。式(1)に費用とコストシェアレートの関係を示す。式(1)のコストシェアレート(Sri )はi番目の要求仕様実現に必費用が総費用(C)に占める割合のことであり、i番目の要求仕様実現に必要な費用がCri である。 従って大きなコストシェアレートを持つ要求仕様は大きな開発費用を必要とするため、システム開発における重要度が高いことになる。
(1)
Cri:i番目の要求仕様実現に必要な費用
C:プロジェクト構築のための総費用
Sri:i番目の要求仕様のコストシェアレート
一般的に、プロジェクトの費用見積もりは、システム構築工数や開発の難易度に基づいて算出を行い、要求仕様別の費用は算出されないため、算出された総費用は顧客のシステムイメージと乖離しており、後の仕様変更の原因となる。例えば、複雑な画面展開は多くの費用を必要とするにも拘わらず、顧客には費用の必要性が認識されないため、多くの場合において、後に費用低減のために画面の簡易化や画面数の削減が発生して仕様変更となる。加えて、顧客にはベンダーが設定した費用分類によって費用が提示され、顧客が提示した要求仕様と費用分類が紐づけされていないため、後に仕様変更が発生する原因となる。ベンダーが設定した費用分類とは、例えば設計、開発、試験、インストール、打ち合せ、書類作成である。そこで、プロジェクトリスク低減を図るために、仕様別のコストシェアレートを算出してリスクを可視化することを提案する。リスクの可視化ができれば、リスクの低減が期待できる。コストシェアレートの大きい仕様に内在する曖昧さはプロジェクトリスクを高める。図 3に過去のプロジェクトにおける開発費用をコストシェアレート表示した例を示す。図 3の横軸は顧客からの要求仕様NO.を示し、縦軸は要求仕様のコストシェアレート(%)である。
図 3コストシェアレート(見積もり費用分類に基づく)
4.2 要求仕様中の不確実要因とリスク
プロジェクトを計画通りに終えるためには正確な見積もりが必要となる。しかしプロジェクトには表 1に示す様にマイナスとプラスのリスクがあり、リスクの正確な評価が見積もり精度を左右する。表 2のリスク値は過去のあるプロジェクトについて3人のプロジェクトスタッフから得た主観的な値であり、要求仕様が属する分類別のリスクの大きさを示している。リスクの大きさは対応費の確保割合で示されており、曖昧性や不確実性を反映している。表 2中のリスク値は当初費用に上乗せする予備費の割合であり、例えばスタッフ1は設計分類に属する仕様には20%の予備費が必要であると回答している。本論文ではプロジェクト実行に必要な費用を当初費用と呼び、リスク対応費を含めた費用を総費用又は単に費用と呼ぶ、またリスク対応費を単にリスクと呼ぶ。表 2中のリスク値の大きい要求仕様分類は精度が低い、又は実現の難易度が高い要求仕様を含む分類であることを示す。そして表 2の合計は金銭的損失に換算したリスクへの対応費であり、リスク対応費は当初費用の20%となることを示している。20%のリスク対応費は、一般的なプロジェクトにおけるリスク対策費と等しい。例えば、一般的なプロジェクトではコンテンジェンシー予備費として当初費用の10%を確保する、加えてマネジメント予備費として当初費用の数%を加えた、合計費として、当初費用の約20%をリスク対策費として計画する。つまり本結果は一般的なプロジェクトではリスク対応費として当初費用の20%をリスク対策費として確保する根拠を与える。図 4は図 3に示したコストシェアレートにリスクを追加表示している。リスクはコストシェアレートに変換されている。式(2)はi番目の要求仕様実現に必要なコストシェアレートの算出方法を示しており、要求仕様実現に必要なコストシェアレート()は各要求仕様中のアイテム別のコストシェアレート()にアイテム別の遅延確率を含む費用割合()を掛け合わせた合計である。アイテムとは設計、開発、試験、打ち合せ、インストール、書類作成であり、それぞれのアイテム別のリスクは表 2のリスク値の平均を使用している。従って、図 4が示す様に各要求仕様が持つリスクのコストシェアレートを予測できれば、正確な費用の算出が可能となる。本手法はまずプロジェクトの当初費用が与えられることが前提であり、本手法は要求仕様別のリスク分析を提供する。本手法を用いて、当初費用の見直しとリスクを含めた総費用の算出を繰り返すことにより手戻りが生じない適切なプロジェクトの計画が可能となる。仕様の変更は手戻りと遅延につながり、無駄な費用を必要とする。そこで、本手法により仕様の精度向上が達成されれば、適切な費用計画が実現する。
(2)
:i番目の要求仕様実現に必要なリスクを含む費用をコストシェアレート表示したもの
:i番目の要求仕様中のn番目のアイテムの費用をコストシェアレート表示したもの
:i番目の要求仕様中n番目のアイテムの遅延確率を含む費用割合
表 2 要求仕様分類別のリスク対応費の確保の割合
図 4 リスク込みのコストシェアレート
4.3 要求仕様分析とコストシェアレート
表 2に示したリスク値つまり、要求仕様別のリスク対応費の確保割合はスタッフから得た値であった。しかし言語的な要求仕様分析から要求仕様別のリスク値を得ることができれば、コストシェアレートの自動計算が期待できる。更に図 4に示す様にプロジェクトの費用を要求仕様別に分析して可視化できれば精度の低い要求仕様を見直すことが可能となり、精度の高い費用算出が可能となる。そこで、要求仕様分析からコストシェアレートを算出する手法を提案する。以下に、ある過去のプロジェクトからコストシェアレートを算出する手順を示す[9]。本例ではi番目の要求仕様のリスクを含まないコストシェアレート(Cri)の予測を行う。
要求仕様からのキーワード抽出
本ステップでは要求仕様を英語に翻訳して言語解析を行い、キーワードを抽出する。図 5に例を示す。要求仕様を翻訳する理由は英語では、文が分かち書きされているため、形態素解析が正確に行えるからである。次に図 6に各要求仕様中に出現するキーワードの出現状況をカウントする様子を示す。左側のキーワードは全要求仕様から抽出したす全てのキーワードが並んでおり、各要求仕様別に出現したキーワードをカウントする。
オーバーラッピングキーワードの取得
オーバーラッピングキーワードとは2つ以上の要求仕様に出現するキーワードのことであり、オーバーラッピングキーワードの出現状況を分析することにより、要求仕様間の関係と要求仕様の重要性が分析できる。図 7に要求仕様Req01からのReq05オーバーラッピングキーワードの取得例を示す。図 8は要求仕様Req01のオーバーラッピングキーワードを示し、Req01と他の要求仕様との関係を示す。また、要求仕様の属する分野の特定もオーバーラッピングキーワードの取得と同様に用語辞書中のキーワードと各要求仕様中のキーワードを突き合わせて要求仕様の属する分野を特定する。用語辞書は仕様分類を代表するキーワードを含み、仕様分類は基本設計及び設計、画面作成、ロジックプログラムミング、その他である。
ファーストオーダの取得
ファーストオーダとは各要求仕様と他の要求仕様との関係であり、ある要求仕様と他の要求仕様間においてオーバーラッピングキーワードが存在する場合には2つの仕様間には関係があるとする。例えば図 7において要求仕様Req01と要求仕様Req02の間には6個のオーバーラッピングキーワードが存在するため、要求仕様Req01のファーストオーダを1つカウントする。同様に、要求仕様Req01は他の17個の要求仕様との間にオーバーラッピングキーワードを持つため、要求仕様Req01のファーストオーダは17である。
コストシェアレートの予測
回帰分析を用いてコストシェアレートの予測を行う。式(3)に回帰式を示す。回帰分析のパラメータはオーバーラッピングキーワード数、出現キーワード数、要求仕様の属する分野である。
= 0.19X1 + 0.023X2 + 0.47X3 -0.871 (3)
Cri: 費用予測(コストシエアレート)
X1: 各要求仕様のオーバーラッピングキーワード数
X2: 各要求仕様が持つキーワードの数
X3: 各要求仕様の分類、要求仕様の分類は基本設計、設計、画面作成、ロジックプログラムミング、その他であり、各分野のキーワードを含む用語辞書と各仕様から抽出したキーワードとの突合せで所属分野を特定する。
図 9は過去のプロジェクトについて式(3)を用いて分析したコストシェアレートと3人のスタッフから得たコストシェアレートを比較表示している。スタッフ値は3人のスタッフからの値の平均による主観値である。
図 5 キーワード抽出の例
図 6 キーワードの出現頻度の例
図 7 オーバーラッピングキーワードの例
図 8 仕様間の関係分析の例(仕様1と他の要求仕様)
図 9 コストシェアレート予測値とスタッフからの値
4.4 コストシェアレートの自動計算
図 9は要求仕様を言語解析して特徴量を抽出して演算を行うことにより、コストシェアレートを自動取得できる可能性を示している。しかし、今後、より大規模なプロジェクト分析の場合には広範囲な専門語を含む用語辞書の準備と分類精度の向上が必要である。例えば、今回は抽出したキーワードと用語辞書中のキーワードとの突合せを行い、マッチしたキーワードが最も多く属する分野を仕様分類とした、しかし更に、要求仕様の分野分類の精度を上げるためには出現キーワードの関係を考慮する等の分類手法の更なる研究が必要である。
5.プロジェクトの遅延予測
5.1 要求仕様別の作業遅延予測
プロジェクトの遅延により費用超過が生じ、プロジェクトリスクとなる。プロジェクトが遅延するか否かは各タスクの進捗状況による。そこで本研究では各タスクの遅延確率:Pを式(4)の様に定義する。式(4)中の は計画日数と実際にタスク完了にかかった日数の割合、つまりタスクの達成度合いであり、式(4)のPiはi番目のタスクが遅延する確率である。ただし、計画日数より早くタスクが完了した場合にもPiは0より小さくならない。理由はプロジェクトマネジメントでは計画日数より早くタスクが完了した場合も単にタスク完了であり、ステータスとしてはスケジュール通りとして判断するからである。次に過去の実際のプロジェクトにおける各タスクの進捗状況(表 3参照)を(5)式に示すβ関数に適応することにより表 4に示すパラメータを得た。表 4のパラメータからプロジェクトの遅延確率を予測した結果を図 10に示す。図 10の横軸は各タスクの開始時間であり、全工期を0から1に正規化している。そして縦軸は各タスクが遅延する確率を示す。例えば開始時期が0に近いタスクである計画に属するタスクの行程が遅れる確率は0.69であり、タスク全体の遅延確率の平均は0.225である。
(4)
Pi:遅延確率 Dpi:計画日数 Di:実作業日数
i:i番目のタスク
表 3 タスクの進捗状況
(5)
表 4 取得したβ関数のパラメータ
図 10 プロジェクト中のタスクの遅延予測
過去のあるプロジェクトのコストシェアレートに要求仕様分類別の遅延確率(図 10参照)を掛けて得た結果を表 5に示す。仕様分類は基本設計、設計、製作、試験、図書であり、コストシェアレートは3人のスタッフから得た主観値である。表 5の結果から遅延リスクを含むプロジェクトの費用予測は当初費用の約10%増しとなっており、一般的なプロジェクト計画では10%程から20%の費用をリスク対策費として計画することに適合する。また表 5の結果から主設計や設計に関する仕様の精度はプロジェクトリスクを左右することが解る。一方、製作、試験や図書作成には遅延リスクが無いことが解る。
表 5 要求仕様別遅延確率
5.2 ベイジアン推定
プロジェクトには表 1に示す様な不確実要因があり、プロジェクトの遂行を不確実にする。そこで本研究では条件付き確率とベイズ推定の式(6)を使用してプロジェクトリスクを推定する方法を提案する。
(6)
以下にベイズ推定の例を示す。本例ではプロジェクトが予定通り進む確率とスタッフからの進捗に関するレポートの信頼性に関する確率の関係を考える。プロジェクトが計画通りに終了する確率をA、そしてスタッフからの進捗に関するレポートの信頼性の確率をBとする。そしてA=0.9、B=0.7とすると、プロジェクトが実行される世界の確率状況は図 11となる。
図 11 報告を受ける前の世界確率の図
次に機械学習システムのWeka (Waikato Environment for Knowledge Analysis) [10]を使用してプロジェクトが実行される世界の確率状況を表現した様子を図 12に示す。図 12と図 13はWeka上のProjectノードとReportノードに表 6と表 7の条件付き確率を与えている様子を示す。Wekaのベイジアンネットワーク表示では確率0.9は9000、そして確率0.7は6599と表示されている(図 12参照)。
表 6 Weka上のProjectノードの条件付き確率
表 7 Weka上のReportノードの条件付き確率
図 12プロジェクトのベイジアンネットワーク表示
図 13 ProjectとReportに条件付き確率を与えている様子
次に、スタッフがプロジェクトの進捗は計画通りと報告した後のプロジェクトの実行世界は表 8と図 14に示す様になり、Aの確率は式(7)に示す通り0.95となる。
そして図 15はWekaでの表示を示す。ベイジアン推定ではエビデンスと呼ばれる状況報告が与えられることにより、事象の確率世界が変化する。本例でのエビデンスはスタッフが報告したプロジェクトの進捗は計画通りである。
表 8 報告を受けた後の世界確率
図 14報告を受けた後の世界確率の図
(7)
図 15 報告を受けた後のベイジアンネットワーク表示
5.3 プロジェクトリスクのネットワーク表現
プロジェクトリスクが生じる主な要因として顧客からの要求仕様の精度やプロジェクトマネージャーやプログラマーのスキルと見積もり精度がある。そこで、この上記要因とプロジェクトの遅延確率の関係をベイジアンネットワークで表現した様子を図 16に示す。本ベイジアンネットワークではプロジェクトリスクはプロジェクトの遅延確率である。以降、プロジェクトリスクはプロジェクトの遅延確率とする。表 9は図 16の要因が取りうる値を示す。ベイジアンネットワークはインフルーエンスダイアグラム[11]の意思決定ノードと不確定ノードがないものであり、親ノードと子ノード間の関係を条件付き確率で表現する。図 16中の親ノードはプロジェクトの遅延確率(PPD)であり、子ノードにエビデンスが与えられると親が示す世界の確率が変化する。
図 16プロジェクトリスクのベイジアンネットワーク
表 9 ベイジアンネットワーク中の要因の内容
5.4 ベイジアンネットワークと遅延予測
表 9の要素をWeKaで表現したものを図 17に示す。図 17中のプロジェクトの遅延確率(PPD)はPro+と表現される。図 17のベイジアンネットワーク中の条件付き確率の初期値は表10の通りである。そして表10はプロジェクト中のリスク要因とプロジェクトの状態との関係を示す。状態とはプロジェクトが遅延するか計画通り進捗するかである。また表10の条件付き確率は5人のプロジェクトマネージャーからヒアリングした値の平均である。そしてプロジェクトの遅延確率(PPD)の初期値として0.5を与えた後にベイジアンネットワークにエビデンスを与える。与えるエビデンス(Case1)はAE:見積精度とSPM:プロジェクトマネージャーのスキルがStandard、STP:プログラマーのスキルがHigh、AR:要求仕様の精度がLowであり、この時プロジェクトが遅延する確率は約0.26となる(図 18参照)。一方、エビデンス(Case2)をWeKa(図 17参照)に与えた場合の遅延確率は0.125となる(図 19参照)。Case2のエビデンスはAE:見積精度、SPM:プロジェクトマネージャーのスキル、AR:要求仕様の精度がStandard、そしてSTP:プログラマーのスキルがHighである。表 11に以上のCas1とCase2のエビデンスを与えた時のプロジェクトの遅延確率を示す。
図 17 リスクのベイジアンネットワーク表現
表 10 プロジェクトの条件付き確率
図 18 リスク予測(Case1)
図 19 リスク予測(Case2)
表 11 リスク要因の状況と遅延リスク
表 11に示すCASE別の遅延リスクを、ある過去のプロジェクトに適応した場合の費用予測と実費用の対比を表 12に示す。本例では見積精度とプロジェクトマネージャーのスキルはStandardで、プログラマーのスキルがHighの条件下では、顧客の要求仕様の精度がHighからLowに代わることにより費用超過が当初費用の約10%から20%に変化することを示しており、実際のプロジェクトの実行状況に近い。実際に本プロジェクトでは仕様の変更が多発しており、実際に必要とした費用は当初費用の約20%増しである。以上から、表 12の結果は実際のプロジェクトの実行環境において費用が超過する根拠を与える。一般的なプロジェクト環境では、プログラマーの教育や、プログラムの部品化により高いスキルを持つプログラマーを準備することが可能であり、見積りとプロジェクトマネージャーのスキルは標準的である。しかし、要求仕様の精度は不確実である。また、表 12のCase1とCase2の違いも要求仕様の精度がStandardかLowかであり、顧客からの要求仕様に変更が発生するか否かがプロジェクトリスクを左右する。従って、本結果から要求仕様を言語解析してコストシェアレートの自動算出を行い、更にプロジェクト中の不確実要因の状況を観測することにより、リスク対応費込みのプロジェクト費用を予測しようとする本手法の有効性が示された。
表 12 リスク予測と実費用
6.プロジェクトリスク予測ツール
本研究ではプロジェクトリスクを予測するツールを開発した。本ツールは要求仕様別のコストシェアレートとベイジアンネットワークの条件付き確率を与えることにより、要求仕様別のリスクを含む予想費用を表示する。図 20はPPDノードに条件付き確率の初期値として遅延が0.5、計画通りが0,5を与えている様子を示す。そして図 21はSPMノードにエビデンスとしてLowを与えている様子を示す。本システムの条件付き確率データ形式はWekaのデータ形式と互換である。図 22はあるプロジェクトのリスクを含む費用を予想した例を示す。幾つかのプロジェクト環境別に本システムを使用して得た遅延確率を表 13に示す。一般的にスキルの高いプログラマーを準備することは可能である。しかしスキルの高いプロジェクトマネージャーは限られており、全てのプロジェクトにスキルの高いプロジェクトマネージャーを配置することは難しく、プロジェクトリスクは顧客からの要求仕様の精度次第である。従って表 13の示す結果は実際のプロジェクトの実行環境に近い。要求仕様の精度とは仕様の変更が発生するか否かである。従ってプロジェクトの遅延リスクを下げるためには要求仕様の精度を上げることが必要である。そこで要求仕様の精度を上げるために本ツールを使用して、要求仕様別のリスクを可視化して、リスクの高い要求仕様が明らかにすることができれば、要求仕様の精度向上が可能となり、結果的にプロジェクトリスクの低減が期待できる。
図 20 条件付き確率データ(一部)
図 21 エビデンスデータの例(一部)
図 22 要求仕様別の予想費用表示
表 13 リスク要因の条件別のプロジェクトリスク
7. 結論
本論文では確実なプロジェクトマネジメントの実現を目指して、顧客が提示する要求仕様の曖昧さ、やプロジェクト中の不確実要因を考慮したプロジェクトの確率的リスク評価方法を提案した。プロジェクトの遅延は費用増となるため、プロジェクトリスクは費用で示すことが可能である[12]。そこで本研究は顧客が提示する要求仕様の重要性を可視化するためにコストシェアレートを提案した。コストシェアレートとはある要求仕様を実現するために、必要な費用がシステム全体の開発費用に占める費用割合のことであり、コストシェアレートは要求仕様の重要性を反映する。要求仕様中の不確実要因はプロジェクトリスクを左右する。そして本研究はプロジェクトリスクを含む費用予想を行うためにベイジアンネットワーク利用した手法提案して、コストシェアレートとベイジアンネットワークを用いたプロジェクトリスク予測ツールを開発した。そして幾つかのプロジェクト環境におけるプロジェクトリスクを予測した。その結果、本プロジェクトリスク予測ツールの予測結果は現場のプロジェクトマネージャーからのヒアリング結果や実際のプロジェクトの実行状況に合うことが示され、本手法の有効性が示された。今後、本ツールを発展させることにより、プロジェクトリスクの可視化が可能となり、要求仕様の精度向上と確実なプロジェクトマネジメントが期待できる。
8.考察
本研究で提案したコストシェアレートの算出は言語解析と回帰分析を用いた。しかし、実際のプロジェクトではプロジェクトが進むに従い、要求仕様間の関係も変化する。一方、筆者は時間軸に沿った人の主観の変化を模擬する方法として3秒ルールインテリジェンスを提案しており、3秒ルールインテリジェンスは人の価値観が周囲の状況や目的の変化により常に変化して人の判断と行動に揺らぎを与える様子を模擬しようとする考えである。3秒ルールインテリジェンスは人と同様に3秒未来まで価値観の揺らぎに従い、物事の順位付けと行動判断を行うことを目指している[13]。本研究で示した要求仕様が時間軸に沿って変化する背景には構築しようとしているシステムの機能に対するユーザの価値観の変化が存在する。そこで今後の要求仕様精度予測と精度向上に3秒ルールインテリジェンスの適応を検討することが期待できる。
謝辞
本研究はJSPS科研費 17K00354の助成を受けた。
本研究のデータ分析に助言を頂いた横浜国立大学の満行泰河准教授に感謝申し上げる。また、データ提供を頂いたインターリンク(株)の森 尚久氏と(株)テクノソリューションズの坂口憲一氏に感謝申し上げる。
参考文献
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[2] 持田 信治,プロジェクト管理にための知識検索機能実現に向けて,バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 Vol.14,No2、15-22, 2012
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[12] 最新リスクマネジメントがよーくわかる本, 東京海上日動リスクコンサルティング,2012
[13] 持田 信治,3秒ルールAI実現に関する研究,日本経営システム学会第62回全国研究発表大会講演論文集、138-139, 2019
著者氏名(ふりがな)
現職○○大学○○学部○○科
略歴